主力事業で培った実績を応用し、新たなステージへ

射出成形機の心臓部であるシリンダー（加熱筒）は高温を保ち、プラスチック製品の原材料を溶かす役割を担う主要機構。 株式会社 城洋はさまざまな製法のうち加工の難易度が極めて高いHIP（Hot Isostatic Pressing：熱間等方圧加圧法）シリンダーにおけるリーディングカンパニーです。 HIPとは、ガスを圧力媒体として粉末の焼結や拡散接合等を施すことで、耐蝕性や耐摩耗性を付与する処理を指します。 HIP処理に使われる材料の開発や配合まで手がける同社の生産体制は同業他社の追随を許しません。 将来はHIPシリンダー製造で培った技術や経験を航空宇宙や医療分野に水平展開し、次なるステージの起爆剤とする計画です。

マザック機で統一された製造ライン【左】
複合加工機により長尺ワークの工程集約を実現【中】
鳥取工場の社員のみなさん【右】

　城洋の歴史は⻆田城治社長の父親、豊会長が1964年に創業した工具商社「⻆田商店」から始まります。 65年に「城洋鉄工所」を設立し、産業機械の部品製造などを通じて加工技術に磨きをかけました。 89年、現社名に改めると⻆田社長は「自社ブランドを持てるメーカーを目指す」ための基盤固めを推進。
　そのなかで、応用性に優れ、高品質なものづくりに欠かすことのできないHIP技術に着目。 2001年に今日の主力製品である射出成形機のHIPシリンダー事業に参入し、メーカーとしての一歩を踏み出しました。
　シリンダーへのHIP処理の要点は、円筒の内面に粉末合金を拡散接合させ、ホーニングを行うことです。 しかし、その難易度は極めて高く「当初は歩留まりが低いことが課題でした。それを少しでも上げるために拡散接合する材料の選定や 配合の観点から独自の加工法を追求し、2年間かけて改善しました」（⻆田社長）。
　試行錯誤の末に開発された同社のHIPシリンダーは、さまざまな材質のプラスチックに対応。 多くの射出成形機メーカーから高い評価を得て、現在では同社の売り上げの40％を占める主力製品となっています。
　射出成形機のシリンダー市場における同社の国内シェアは約17％です。「17％というと少なく感じるかもしれませんが、 最上位の製品ゾーンはほぼ当社製で占められています」（同）。

HIP処理技術の展望について語る⻆田社長

リードタイムの30％短縮を目指すライン

　14年には「ひょうご航空ビジネスプロジェクト」に参加し、航空宇宙産業を見据えた体制を整えました。 そのための製造拠点として19年に稼働を始めたのが鳥取工場です。
　「姫路工場一極に偏らないリスク分散が主目的です。行政のご理解や雇用のしやすさも進出を後押ししました」（同）。 同工場では航空機部品のほか、HIPシリンダーや造船関連、水処理関連などの量産品の製造に力を入れています。
　同工場の新設にともない、CNC旋盤 QUICK TURNシリーズ3台、複合加工機 INTEGREX iシリーズ4台の計7台を導入。 すべて、コーポレートカラーのサックスブルーの塗色が施されています。
　「鳥取工場に導入した設備でリードタイムの30％短縮を目指しています」（廣瀬達生総務部担当部長）。
　製造ラインをマザック機で固めた理由は「会長が最初にマザック製汎用旋盤を導入して以来続く、製品への信頼のため」と⻆田社長。 「複合加工機も技術的に安定しているし、難易度の高い加工に取り組む時も、一緒に解決方法を考えてくれました。 品質を重んじる当社の製品には、マザック機が欠かせません」（⻆田社長）と導入効果に期待を寄せています。

4台のINTEGREXなどで、リードタイム30%短縮を目指す【左】
MAZATROLで複雑な加工プログラムも短時間で作成【右】

培ってきたノウハウを研究開発へ

　同工場の主力製品であるHIPシリンダーの生産能力は月産600本ですが、鳥取工場の新設は 単に生産能力の増強だけを目指したものではありません。
　AIやIoTなどを取り入れた最先端のものづくり工場を構築し、人材育成や雇用促進など、 地域と共に発展できる関係を築き上げることも狙いとしています。
　また、次代を見据えた新合金の加工技術や独自の粉末合金などの研究開発拠点としての役割を担うことも期待されています。
　同拠点では、HIPシリンダーの製造を通じて得られたノウハウを航空宇宙産業や医療、ITなどへの研究開発に役立てる計画。 HIP技術の優れた応用性を起爆剤に、新たなステージへ向けた大きな一歩を踏み出します。

2021年2月掲載
サイバーワールド61号より引用

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